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食で未来につなぐ 「ヨシ」食品に迫る(マザーレイクニュース)

MLGs WEB学生ライターの豊田真彩(立命館大学)・田中優衣(立命館守山高等学校)です。みなさんは、ヨシのことをご存じですか。ヨシとは、琵琶湖周辺に数多く自生するイネ科の植物で、よしずや夏障子、屋根などの素材として活用されています。今回はヨシの保全や継承に取り組み、”食べるヨシ”の発信に携わっている、NPO法人秀次倶楽部の髙木茂子さんにお話を伺いました。(取材日:2021年8月12日)

八幡堀のそばにあるギャラリースペース新町浜。

お店の前にあるメニュー看板にはヨシうどん、ヨシアイス、ヨシせんべい…とヨシばかり。さらに店内に入るとヨシぶえのBGMが流れている。

「ヨシ」へのこだわりが溢れているこの場所でお話を伺ったのは、NPO法人秀次倶楽部の髙木茂子さんだ。

きっかけは子どもたちのため

髙木さんがヨシを使った食品を最初に作ったのは約20年前。イベントのために料理人さんと一緒に食事にヨシを取り入れてみようと模索し始めた。最初につくったのはお豆腐などで、それ以降、パンやケーキなどさまざまなものを試行錯誤してきた。

そもそも「ヨシ」は、よしずや松明に利用されるように茶色くなったものを見ることが多いが、5月から6月までの新芽の時期に摘み取り、干して粉にしたものは栄養が豊富で食用にすることができる。しかし、1つのヨシから1つしか新芽を収穫することができない上に、手作業で干す作業までを行うため、コストが高く商売にはならない。それでも、多くの人にヨシの食品を知ってもらうために、価格を抑えて販売を続けているそうだ。

髙木さんがヨシを使った食品を作ることにこだわるのには「子どもたちに伝えなければならない、そのためには食べることがわかりやすい」と考えているからだと話す。

琵琶湖とつながるヨシを次世代に

今年7月に制定されたMLGsには、「4.水辺も湖底も美しく」や「9.生業・産業に地域の資源を活かそう」とあるように、琵琶湖の周辺環境や文化についてのゴールも盛り込まれている。その中でも琵琶湖のヨシ群落は、琵琶湖の水質浄化や様々な生き物のすみかとしての役割があり、周辺で保護活動が盛んに行われている。

しかし、ヨシ群落は環境保全だけではなく、人々の生業にも深く関わってきた。近江八幡市の円山町、西の湖周辺のヨシ群落は良質な江州ヨシの産地として有名だ。古くからヨシが育てられ、刈り取ってよしずやヨシ紙として使われ、それらは風物詩にもなっていた。

ヨシについてお話を聞いていると、ヨシが関わっているのは琵琶湖の環境だけではないことがわかる。髙木さんは「環境があり文化があり歴史がある。まちづくりの中でこれらはともに動いて今に至っている」と語る。

ライフスタイルの変化に伴い、ヨシ産業が衰退している今、後世にヨシについて語り継ぐ必要性は増している。だからこそ、身近な食を通して、近江八幡とヨシの環境・文化・歴史を若い世代に受け継いでいこうと取り組んでいるのだ。

ちゃんとつたえる。ヨシから近江八幡を

髙木さんは、小学校高学年の時に近江八幡に移住したという。当初はまちのことを「何もなく面白くない」と感じていたが、まちについて学ぶうちに好きになっていった。里山も、山も、牧場も、琵琶湖もある、京都や大阪へは電車ですぐ行くことができ、すみやすい場所だという。子育てをするようになってからは、さらにまちへの想いが強くなり、子どもたちにもまちのことやその環境のことを知ってまちを好きになってほしいと感じたそうだ。

琵琶湖や、琵琶湖の周囲の自然環境を守るヨシ群落は、保全活動などだけではなく、食べるということでも次世代に繋いでいくことができる。「ちゃんと伝えるから、ちゃんと学んでまた次へと繋げていってほしい」ヨシを使った食品開発の裏側には、ヨシを「食べる」ことで次世代に繋いでいくという想いがあった。

「注目は決して集まらない。でも、人の心のために動く」髙木さんの想いはこれからもヨシの商品を通して若い世代へと伝えられていく。

編集後記

取材の時、よしアイスとよしせんべいを試食させていただきました。

よしアイスは、よもぎのような、緑茶のようなほのかな風味。よしの粉末を混ぜているのでざらざら感が苦手な人がいるかもしれないとのことでしたが、すごく細かい氷の粒が含まれたようなアイスだったので粉っぽさが気になるほどではありません。また、よしせんべいは小麦粉・卵・砂糖・蜂蜜・ヨシ粉というシンプルな材料で、ぼうろのような食感です。アイスとは少し変わって、ヨシ粉の風味はほうれん草のような野菜に近くなりました。風味は野菜の緑っぽさですが、甘さがあるので緑黄色野菜のミックスのようで違和感なく食べやすかったです。新しいのにどこか懐かしい、そんな素朴な味です。

お話を聞いた後に食べたヨシは特別でした。みなさんも機会があれば、琵琶湖の環境や近江八幡の文化や歴史を守るヨシやそれを後世に伝えようと活躍されている方々を想像しながら食べてみてください!

この記事は、「MLGs ライター講座」の受講生の皆様によって取材・執筆いただきました。

取材協力:NPO法人秀次倶楽部(http://www.hidetugu.jp/