開催レポート

土に触れる。まちを歩く。地域の物語に出会う。/2026年度 環びわ湖大学・地域コンソーシアム 学生支援事業 MLGsワークショップ 開催レポート

9月11日(金)、甲賀市信楽町にて、環びわ湖大学・地域コンソーシアム学生支援事業「MLGsワークショップ」を開催しました。テーマは「ものづくり×ケア×信楽」です。県内6大学から集まった11名の学生が、まちを歩いて工房を訪ね、ものづくりと福祉の現場で働く方々の話を聞いたうえで、信楽焼の「汽車土瓶(きしゃどびん)」の絵付けに挑戦しました。専攻は医学、看護、芸術、国際、情報理工、産業社会、食マネジメント、データサイエンスと幅広く、学年もさまざまでした。陶芸部で自ら汽車土瓶を作陶しているという学生もいます。当日のファシリテーションは、成安造形大学の田口真太郎さん(MLGs案内人)に担当していただきました。

甲賀市信楽伝統産業会館前で自己紹介をする様子

まちを歩き、信楽の「いま」を知る

まずは信楽伝統産業会館の「信楽焼ミュージアム」で、展示を見ながら信楽焼の歴史を学びました。その後、この日の拠点となるOgama(おおがま)へ移動します。Ogamaは、1622年創業の窯元・明山窯が、役目を終えた登り窯と作陶小屋を改装して整備したギャラリー&ショップです。

Ogamaの外観/登り窯

午前は2つのグループに分かれ、明山陶業株式会社まちづくり部門の横山さんの案内で、工房の見学と窯元散策路の散策を行いました。工房では職人さんが作業されているところを見せていただき、手作業でつくられた作品がずらりと並ぶ様子に、参加者は見入っていました。散策路はあいにくの雨模様でしたが、斜面に沿って連なるレンガ造りの登り窯や、細い路地に点在するギャラリー、道端のたぬきの置物を見て回りました。路地には空き家も目立ちます。

今回のコーディネーターである田口さん(MLGs案内人)

午前中の後半はチームごとの自由散策とし、それぞれの視点でまちを観察しました。窯の煙突、積み上げられた素焼きの器、シャッターの下りた店先、道路の標識と、同じ道を歩いていても目に留まるものは人によって違うようでした。

まちのあちこちにアートの要素が溶け込んでいます

汽車土瓶の歴史を聞く

続くセッションでは、横山さんに汽車土瓶の歴史を話していただきました。駅弁と一緒にお茶を提供したいという発想から生まれた器で、当初は急須に近い丸い形だったものが、現在の角型へと変化していったそうです。角型は石膏型を使うため比較的誰でも成形でき、しかも箱に隙間なく収まります。つくりやすさと運びやすさを考え抜いた形だといえます。

旅のお供として親しまれた、信楽焼のお茶の器

横山さんは鹿児島県出身。2016年に地域おこし協力隊として信楽に移り住み、観光協会からパッケージ改良の相談を受けたことがきっかけで汽車土瓶と出会いました。取材で信楽学園を訪れたとき、「信楽を凝縮したようなプロジェクトだ」と感じたそうです。信楽焼という産業、信楽高原鐵道というローカル線、そして福祉。その三つが一つの器の上で結びついている。「だからこそ、今日はこれに色を塗ってもらいたいと思いました」と話してくださいました。
現在は明山陶業のまちづくり部門で、信楽に滞在してもらうための仕組みづくりに取り組んでいます。かつて散策路を支えてきた有志の団体が役割を終えた今、「ボランティアに頼るのではなく、きちんとしたサービスに転換しながらまちのことを知ってもらいたい」という話には、産地を続けていくことの難しさが伝わってきました。

「信楽を凝縮したようなプロジェクト」と語る横山さん

ものづくりは、社会とつながるための道具

続いて、滋賀県立信楽学園の今澤さんにお話を伺いました。信楽学園は近江学園の流れをくむ障害児入所施設で、15歳から18歳の児童が3年間、自立に向けた訓練に取り組んでいます。陶器づくりはその中心にありますが、今澤さんは「陶器はあくまでツールの一つ」と言い切ります。学園で身につけてほしいのは、挨拶、返事、報告・連絡・相談といった社会性で、工程の終わりがはっきり見えることが達成感につながるのだそうです。1年目は学園で基礎を固め、2年目からは信楽町内の企業で実習を重ね、卒園後はそれぞれの地域へ戻っていきます。

ものづくりと福祉の関係について伺いました

現場の話も率直に語られました。夏場の工場は40度近くになるため、35度を超えたら作業は中止という基準を設けているといいます。「陶器ができることより、子どもたちが倒れないことのほうが大事ですから」。かつて地域で水害が起きた際、学園の児童が応援に駆けつけたことが、「この子たちはできるんだ」という地域の認識を変える転機になったというエピソードも語られました。信楽が「福祉のまち」と呼ばれる背景には、こうした積み重ねがあります。

MLGsを知り、びわ湖とつなげて考える

休憩をはさみ、インパクトラボの上田隼也さん(MLGs案内人)からMLGsについてのレクチャーがありました。SDGsの17のゴールに対し、MLGsはびわ湖を切り口に13のゴールを設定していること。日本の伝統色を用いたロゴやアイコンが県内の学生とともにつくられたこと。「びわ湖は地球環境を見通す窓」「びわ湖は生活を映し出す鏡」というキーコンセプトの意味。

びわ湖を切り口にした13のゴールについて上田さん(MLGS案内人)から学びました

印象的だったのは、Goal 1「清らかさを感じる水に」をめぐる問いかけです。透明であればあるほど良いように思えるけれど、プランクトンをはじめとする生き物にとってはそうとは限らない。人間の物差しだけで「きれい」を決められないことに、参加者は考え込んでいました。全層循環やマイクロプラスチックの話題にも熱心に耳を傾けている姿が印象的でした。

絵付け、そして語り合い

いよいよ絵付け体験です。アクリル絵具と水彩絵具を使い分け、一人ひとりが自分だけの汽車土瓶を仕上げていきます。ティッシュでポンポンと叩いてぼかす人もいれば、鉛筆で下書きをしてから慎重に筆を入れる人もいました。

白い器に、一筆ずつ色をのせていきます
およそ45分間、それぞれのペースで仕上げていきました

同じ形・同じ白い器なのに、出来上がった11個はまったく違う表情をしていました。
発表では、「フィールドワーク中に見たたぬきと、びわ湖をイメージした水色を組み合わせた」「娘の名前に太陽の意味があるので、赤で太陽を描いた」など、それぞれの物語が語られました。感想では「信楽焼を残すだけでなく、福祉のツールとして活用できることに魅力を感じた」「滋賀が福祉のまちだということを知らなかった」といった声のほか、医療を志す学生からは「医療者も文化の担い手であり、支え手でもあると気づいた」という言葉も。「他大学の学生と話す機会は普段ほとんどない。これからもこういう場に参加したい」という感想もありました。

一人ひとりが作品に込めた思いを語りました

文化から、MLGsを考える

締めくくりに田口さんは、MLGsの中で語られる機会が少ない「文化」という要素に触れました。信楽における文化とは、圧倒的にものづくりであること。同じフォーマットの器に自分で絵を描いたからこそ、筆づかいの難しさや表現のこだわりを互いに共感し合える。その手触りが、子どもから高齢者まで世代を越えてつながる力を持っているのだ、と。一日に何百個も絵付けをしてきた職人の技に感動できるのも、自分の手を動かしたあとだからこそです。
地域資源を生業に活かすこと(Goal 9)、地元を学びの場にすること(Goal 10)、暮らしの文化を次世代に継承すること(Goal 12)、そして立場を越えてつながり合うこと(Goal 13)。信楽での1日は、びわ湖から少し離れた山あいのまちにも、MLGsにつながる物語が確かにあることを教えてくれました。参加者が持ち帰った汽車土瓶は、これからそれぞれの場所で、信楽の物語を語り継ぐ器になっていくはずです。

参加者11名と運営スタッフ

参考リンク
・マザーレイクゴールズ(MLGs)13のゴール https://mlgs.shiga.jp/mlgs/13goals
・一般社団法人 環びわ湖大学・地域コンソーシアム https://www.kanbiwa.jp/
・一般社団法人インパクトラボ https://impactlab.jp
・Ogama(信楽焼窯元・明山窯) https://www.meizan.info/ogama/
・滋賀県立信楽学園(社会福祉法人グロー) https://glow.or.jp/facility/shigaraki/