MLGsニュース

MLGsなひと vol.08 宮尾陽介さん

「MLGsなひと」は、びわ湖版SDGsであるMother Lake Goals(MLGs)の活動に取組まれている方にお話を伺うシリーズです。

第8弾は、今年度からMLGs案内人に就任され、「MLGsなヨシ刈り」体験イベントを主催されている宮尾陽介さんに、イベント中にお話を伺いました。

▼「MLGsなヨシ刈り」の様子はこちら▼

「MLGsなヨシ刈り」体験の現場リポート!会場にはあんな人やこんな人も?こんにちは。 MLGs学生ライターの小野雅崇(立命館大学)です。 今回は、2024年2月17日(土)に行われたイベント「ML...

自己紹介をお願いします!

まるやまの自然と文化を守る会の宮尾陽介です。ヨシの活用によるヨシ原の保全をメイン事業として活動しており、本日開催しているヨシ刈りの他にも、ヨシを使ったワークショップ、ヨシを五感で楽しむヨシフェス、ヨシ製品の制作や販売に取り組んでいます。こういった活動を通じて、ヨシ原を守ることの意義を知ってもらうことを目指しています。そして、多くの人がヨシ製品を使ってもらえるようになることが、広大なヨシ原を守ることにつながる、そういうサイクルを生み出したいと考えています。


西の湖のまわりには、ヨシ原と水田で構成される日本の原風景が広がっています。

どういった経緯でMLGs案内人に就任されたのでしょうか。

MLGsが令和3年7月1日に策定される以前から関心を持っており、私の取り組み自体がMLGsと深く関わっていることも理解していました。しかし、実際にどういった人たちによってどのように取り組まれているのかという全容については、ピンと来ていませんでした。そうした中、昨年9月18日に開催された「MLGsみんなのBIWAKO会議/COP2」に参加したのですが、本当に多様な分野の方が一緒になって作り上げているのだと実感し、ここまでワクワクする会議に参加したのは人生初で、強い感銘を受けました。このときの感情の昂ぶりこそが、私がMLGs案内人として活動したいと思い、MLGsを使っていろんな方とコミュニケーションを深めたいと感じたきっかけでもあります。


びわ湖放送の新春特番でMLGs案内人として出演されたそうです

ヨシとはどのような植物ですか。

ヨシは、イネ科に属する多年生の抽水植物です。ヨシは、寒い時期でも地下茎に栄養を蓄えており、暖かくなると地上に向けて茎が直立し、夏頃には高さ3メートルから5メートルほどまで生長します。秋から冬にかけて地上部の茎が枯れてくるのですが、しっかり葉が落ちきると収穫時期です。春までには刈り取りを終え、刈り跡を焼くことで、4月頃には新たに地上に向けて芽が出てきます。


(かごよし橋から見るヨシ原の風景)
4メートルほどに育ったヨシの広がる水郷の風景です。

なぜヨシ刈りを行うのでしょうか。

ヨシは、4月になると新たに芽が出てくると説明しましたが、前の年に生長したヨシが収穫されずに残っていると、新しい芽の生長を阻害してしまいます。このため、ヨシ刈りやヨシ焼きをしなくなってしまうと、良いヨシが収穫できなくなるのです。質の落ちてきたヨシ原では、オオヨシキリやカヤネズミたちが住処として使えないようになってしまいます。こういったことも大切なのですが、適切に管理されてきたヨシ原では良質なヨシが収穫でき、いろんな製品に活用できるからこそ、ヨシを刈り取る意義が生まれます。


管理されなくなってしまったヨシ原はこのような姿になってしまいます。

刈り取ったヨシは、どのように活用されますか。

かつては、茅葺き屋根やすだれなど、建物に多く活用されてきました。滋賀県は全国有数のヨシの生産地で、品質の良いヨシは「近江葭」というブランドで重宝されていたようです。生きるため、住むために手間を惜しまずたくさん収穫してきた歴史があるのでしょう。
ところが、今は新しく茅葺き屋根を建てることは少なくなって来ており、収穫したヨシを消費する量が減ってきています。一方で、ヨシ笛やヨシ紙など、使い道の幅が広がってきたなと思います。現在は、構造材や内装材として多岐に使えるようなヨシのボードに大きな将来性を見つけ、株式会社エスウッドと滋賀県立大学の三者で開発や製作に取り組んでいます。


(制作したヨシ製品の展示会①)
壁にはヨシボード、宙にはヨシヒンメリがあって、空間がヨシで彩られています。


(制作したヨシ製品の展示会②)

ヨシ糸で編んだクッションカバーやヨシを編んだティッシュカバーなどもあります。

なお、今回のイベントで収穫したヨシは、2025年の大阪・関西万博のEARTH MARTというパビリオンで茅葺き屋根として使用される予定で、西の湖からは約1200束を提供することになっています。


小山薫堂氏がプロデュースされている茅葺き屋根のパビリオン「EARTH MART」の完成予想図です。

ヨシ刈りとMLGs、どんな関わりがあるのでしょうか。

イベント名を「MLGsなヨシ刈り」としているように、ヨシという植物は非常に多くのゴール達成に影響します。なんと13個のゴールのうち、11個のゴールへの関わりがあると考えています。それぞれのゴールにはターゲットやアクションという要素があり、これを体系的にまとめられたアジェンダという文書を見ていただくと、ヨシを活用することがヨシ原を保全することにつながり、ひいては水質保全や生態系保全につながることが分かります。私たちが企画しているイベントでは、そういったことを肌感覚として参加者に理解してもらえると嬉しいです。


インタビューに応じる宮尾さん

今後の展望などお聞かせください。

「MLGsなヨシ刈り」には、子ども、大学生、日頃から関わりのある企業や行政の方、地域の方にもたくさん参加していただきました。こうしていろんな方に、このヨシ刈りを通じてヨシのことを知ってもらい、さらにヨシの可能性を感じてもらえたことで、ヨシ産業が今後発展していくことへの期待が強まります。実は、今年のヨシの日(4月4日)に、西の湖をフィールドとして多様な事業に取り組む組織として、特定非営利活動法人まるよし(以下「NPO法人まるよし」という)を設立します。NPO法人まるよしでは、ヨシ産業を主軸としつつも、ヨシを様々な分野と繋いでいくことも目指しており、放置竹林の整備や耕作放棄地の利活用、西の湖の周辺でサイクリングやカヌーの事業にも取り組んでいきます。
私自身はヨシを本業としていますが、他には山林整備を得意とする者、新たに農家になろうと準備している者、カヌーの指導を仕事にしたい者、などそれぞれの得意分野が違うメンバーで構成しています。どの分野の活動も、それぞれが繋がりあって高めあえるという確信があります。


インタビューを聞きながら、黙々と作業をするお子さんや大人たちの姿が見られました

最後に、びわ湖に関わる全ての皆さんへ一言メッセージをお願いします。

ヨシという植物は、計り知れない可能性を秘めています。私たちの生活にも密接に関わってきた素材であると同時に、多くの生き物にとっても欠かせない存在です。ヨシのことを知る機会として、ヨシ刈りをはじめとするたくさんのイベントを今後も開催していきますので、少しでもヨシやMLGsに感心がございましたら、活動への参加やヨシ製品の使用を少しだけ考えてみてください。その瞬間が、MLGsの達成に向けた一人一人の第一歩になります。

学生ライターとしてのコメント

宮尾さんへのインタビューを通じて、ヨシの魅力や活用を通じたMLGs実現の可能性を感じることができました。また企画を通じて出会った人々とのつながりが見られて、びわ湖を切り口とした未来の価値が広がりを見せていることにも驚きました。今後も、活動の輪が広がっていく事が楽しみですね。
インタビューへのご協力、ありがとうございました!


取材後、桜のつぼみがちらほらと姿を見せ始めていました(=同日、近江八幡市にて)