皆さんこんにちは。学生ライターの廣田歩夢(京都外国語大学)です。今回は12月に滋賀県立美術館にて開催されたアーティスト・イン・レジデンス展覧会「漁師と芸術家~波を紡ぎ、営みを織る~」の様子をレポートします。
BIWAKOアーティスト・イン・レジデンスについて
アーティスト・イン・レジデンスとは、アーティストが一定期間ある土地に滞在し、普段とは異なる環境で作品制作やリサーチ活動を行う活動のことを指します。BIWAKOアーティスト・イン・レジデンスの参加者は琵琶湖で漁師をしている駒井健也さんの元に滞在します。昨年は1日間の滞在でしたが、今年は漁師の暮らしそのものを体験してほしいという思いから、1泊2日に滞在期間が延長されました。今回開催された時期は漁師の方々にとっては漁の準備期間であり、全国から集まった8名のアーティストは網の修理や網洗いなど、普段目にすることは少ないけれど漁を行う上で欠かせない作業を経験しました。一般的な漁師体験イベントと異なりこのような裏側を経験されたのは、「芸術家みんなで、進んでいく船の波を記録し表現することで紡ぐこと。そして網を縫う過程で漁師の営みを多面的に縫い、それを多様性をもって広げていく」という駒井さんの強い思いがあるからです。
展覧会当日の様子と印象に残った作品
駒井さんは普段漁を行いつつ、滋賀ならではの淡水の暮らしを届ける取組を行っています。今回の展覧会はこの取組の1つとして開催されました。来場者として想定されていたのは、展示した作品を美術作品として興味を持ってくれる人です。そのため親子を対象とした9月のヤンマーミュージアムのイベントの時と比べれば、来場された方は高齢な方が多い印象でした。展示は美術館の1室で行われ、来観者は作品や横についているキャプションを読み込み、作者の思いを感じていました。
▼9月のイベントの様子はこちら▼
作品スタイルも映像作品や油絵、彫刻にシルクアートなど様々で、作品によって琵琶湖の印象が変化していきました。8種類の作品の中で印象に残っている作品を2つ紹介します。
まず中田奏花さんの「ひとつ、そしていくつもの」です。この作品は琵琶湖にて生息する生き物たちの産卵場所となっているヨシという植物をモチーフに描いています。ヨシは水辺に生えており、成長する時に二酸化炭素を吸収するほか、水中から窒素等も吸収するので、水の浄化作用があります。さらにヨシは刈り取られた後、簾やかやぶき屋根として活用されるなど、ヨシを中心とした循環型社会の形成を担っています。そのヨシで作られた紙を複数枚使い、湖周辺で育っているヨシを描いています。多くのヨシ紙で制作されているので、ヨシを中心とした社会の広がりを連想しました。
2つ目が祐源紘史さんの「淡海の茶漬け」です。これは滋賀のソウルフードである鮒寿司をモチーフにした油絵です。漁師の方の食事スタイルであるお茶漬けに着目し、その碗の中に琵琶湖を表現しています。キャンパス全体にお茶漬けを描くことで県面積の6分の1を誇る琵琶湖の雄大さを感じました。祐源さんもキャプションで思いとして綴っているように「滋賀の方々の暮らしや産業の多くが、琵琶湖があることで成り立っている」ということを改めて実感しました。
「淡海の茶漬け」
週末開催のワークショップとトークセッション
今回の展覧会では会期中の週末に2つのワークショップが開催されました。土曜日には版画を通して琵琶湖に多くの種類の生き物がいることを知ってほしいという想いから「漁具で描く琵琶湖の世界~スチレン版画づくり体験」と称したワークショップが実施されました。当日は20名が参加し、漁で用いる網を使い版画の模様づけを行い、版画を通して琵琶湖の世界を描きました。
日曜日には「漁師と芸術家トークセッション」が開催され、地元の学生や企業の方、アーティストなど30名ほどが会場に集まりました。制作の思いや実際に駒井さんの元に滞在したときの様子などをお話され、参加者との交流を図りました。
終わりに
今回の主催者である駒井さんは「今回のイベントを通して教材や報道とは異なる視線で琵琶湖の生き物や漁業について伝える試みになり、昨年のワークショップで参加者だった方が今回はスタッフとして関わるなど活動の輪が広がっている」とお話されていました。
今回、琵琶湖での漁をモチーフに描かれたアーティストの方の作品を間近で味わい、アートの素晴らしさやメッセージ性を実感しました。アーティストとライター、伝える媒体は異なりますが「伝える」ことを使命としています。世界農業遺産にも認定された、湖魚を中心とした漁業や農業がつながる資源循環型システムである「琵琶湖システム」を永く守っていくために、学生ライターとして記事を発信し続けていくだけでなく、消費者としても関わる機会を増やそうと思います。