こんにちは。
立命館大学の佐藤です。
「MLGsなひと」は、びわ湖版SDGsであるMather Lake Goals(MLGs)にどのような方が関わっているのか紹介するシリーズです。
MLGsに関わる活動において特に活躍されているMLGs案内人幹事の皆様にお話を伺う5本に渡るシリーズです。
第4回はNPO法人碧いびわ湖代表理事の村上悟さんです。
Q:NPO法人碧いびわ湖の取り組みについて教えてください
ー「子どもと湖が笑ってる未来へ」を合言葉に、市民の協力で持続可能な暮らしや社会をつくる活動をしています。一人ひとりが自発的に行動し、対話をし、協力しあう「市民自治」が活動のベースです。地域づくり、共同購入、リサイクル、住まいづくり、政策提言などの事業と活動を行っています。
活動のはじまりは1970年代、旧湖南生協(現在は他生協と合併してコープしが)が労働組合や婦人会などと協力して取り組んだ、琵琶湖の「せっけん運動」です。それまで表舞台に出る機会の少なかった女性や大企業の労働者たちが、自分たちの生活のあり方を見直し、声をあげて、社会の仕組みを変えた歴史に残る運動です。
この運動の中から、全国初の環境専門生協、滋賀県環境生協が1989年に設立されました。環境生協では、廃食用油から石けんへのリサイクルに加えて、牛乳パックのリサイクル活動も始まりました。家庭排水を浄化する合併浄化槽の設置事業も行いました。地球温暖化とも向き合い、廃食用油を原料にしたバイオディーゼル燃料の製造と休耕地での菜の花の栽培を軸とした、菜の花エコプロジェクトも推進しました。
そして2009年に、同生協の活動を継承して発足したのがNPO法人碧いびわ湖です。
リサイクル事業は今も活動の柱の一つです。牛乳パックのリサイクルでは、多くの団体や企業にご協力いただいています。リサイクル液体せっけんについては、量り売りのシステムづくりを少しずつ始めています。
これらの製品は碧いびわ湖の共同購入事業でご購入いただけます。
共同購入サイト:https://aoibiwako.ocnk.net/
住まいづくり事業は、前述の合併浄化槽の設置事業が始まりです。今では、太陽熱や雨水、地元木材を活用するなど、身近な自然と豊かにつながる住まいづくりを進めています。また、セミセルフビルドやDIYもしています。
地域づくりでは、子どもたちが自然の中でのびのびと育ち、学ぶことができる環境づくりや、多様な生き物の住める川づくりなどを、色々な人々や団体と連携して取り組んでいます。MLGs推進事業もその一つです。
全ての活動に共通しているのは、人と人をつなぎ、人と自然をつなぐことです。持続可能な生態系が多様な生き物のつながりでできているように、「つながり」の豊かさが、持続可能な暮らしと社会の基盤だと考えています。
活動は、会員一人ひとりの自発的な想いや行動が起点です。NPO法人化した2009年ごろは、環境問題に関心がある人が今ほど多くなかった時代でした。その中でも出会えた仲間が、自然なお産や母乳育児を広める活動をされているお母さんたちでした。自身の出産体験を通じて、生き方や暮らし方を見つめ直したお母さんたちからは、たくさんの学びやパワーをいただきました。自然も人も等しく思いやり、他者を寛容に受け入れる皆さんの心持ちと振る舞いが、一人ひとりの想いを大切にする碧いびわ湖の規範のベースにあります。手づくり市民メディアの「あまいろだより」も、その仲間たちが中心となって12年以上発行し続けています。一つの答えを示すことよりも、対話を深め、一人ひとりが考えるきっかけを与えることを大切にしているメディアだと感じています。
Q:滋賀県余呉町出身の村上さんですが、この活動を始めるきっかけは何でしたか
ー農村で生まれ育ったので、藁や薪でお風呂をたいたり、し尿を肥料にしたりといった、伝統的な「循環型の暮らし」に触れてきました。また、父が仲間と共に自然観察や自然保護活動をしていたため、余呉湖や琵琶湖などに出かけ、多くの自然体験や知識、人とのつながりを得られたこともその背景にあります。
開学したばかりの滋賀県立大学環境科学部で学び、卒業して、最初は茨城県のNPO法人に就職しました。市民による自然再生の事業に関わったのですが、「頭でっかち」な自分に限界を感じました。環境問題を理解できても、どう行動したらいいのかわからない。理解ができるということと、状況を変えるために手を動かすことはイコールではないと痛感しました。
そこで、自分の生活を地べたから見直したいと考え、滋賀県に戻り、大工の見習いや米作りなどをしました。最初に、自分の6畳の部屋を、無垢の杉板でリフォームしました。部屋が完成した時に感じたのは、自分で作った空間の居心地の良さは、他人に作ってもらったものとは全く違う、ということでした。部屋と同じように「社会」も、自分が関わっていくことで、より居心地よいものになると思うので、僕は今も「自治」を大切にし続けているのだと思います。
数値評価がもてはやされる時代ですが、もっと肌感覚や直感を信じたほうがいいと思います。一人ひとりがトライ&エラーを繰り返し、改善を積み重ねること。それが、心豊かで持続可能な社会をつくることにつながるのではないかと考えています。
Q:MLGsに関わるきっかけは何でしたか
ー2009年から、滋賀県のマザーレイク21計画の改訂作業に関わったのが始まりです。佐藤祐一さん(滋賀県琵琶湖環境科学研究センター)からお声掛けいただきました。行政の政策に市民の声も反映できるなら、と参加しました。その後約10年、マザーレイクフォーラムの運営委員として関わりました。マザーレイクフォーラムは、多様な市民や企業などの参加と連携を生み出すよう、みんなで努力しましたし、一定の成果も得られました。しかし、当初掲げた目標を十分に達成できませんでした。そこで、過去10年の反省点を踏まえ、マザーレイクフォーラムにいただいた寄付金を活用して、新たな時代の活動を模索する社会実験を行いました。そして、議論を積み重ね、スタートできたのがこのMLGsです。
Q:MLGs案内人幹事としてどのような役割をされていますか
ーMLGsで大きく変わったのは、県が定めた計画に沿って市民や企業が活動するという受動的なスタイルではなく、誰でもどこからでも行動を起こすことがMLGsへの寄与になるという、自発的なスタイルにしたことです。
一人ひとりの多様な想いや個性を活かしあい、対話を通じて相互理解と協力を生み出すためには、一定のスキルが必要です。自分の中に蓄積された市民自治の経験やネットワークを活かし、関係者のみなさんをつなぎ、行動を促進していくのが自分の役割だと思っています。最近では、美術家の方々による漁師体験と作品制作のワークショップを担当しました。運営スタッフのチーム形成を進めつつ、必要な事務をサポートして、熱のこもった活動を創り出すことができました。今後は、琵琶湖とその流域の保全と活用に関する活動を活性化していくための資金循環の形成にも取り組んでいく予定です。
「MLGsワークショップ 一日限りのBIWAKOアーティストインレジデンスえを開催しました」
記録動画:https://www.youtube.com/watch?v=2i0Bag9y8CU
Q:琵琶湖とのおすすめの関り方を教えてください
ー自分が興味のあるものを入り口に、琵琶湖との関わり方を見つけていくのがよいと思います。私は生き物、特に野鳥がきっかけでしたが、小説でも建築でも、琵琶湖に関わるきっかけは色々あります。もし、これというものが思い当たらなければ、琵琶湖博物館を訪れてみるのもおすすめです。
僕は中学生のときからバードウォッチングをしているので、鳥の目で世界が見えるようになってきています。同じ景色でも、鳥の目で見ると違って見えるのです。「あ、あの鳥が渡ってきたな。」と季節を感じることもできます。鳥の渡りを追いかけると、地球というものが実体をもって感じられるようにもなります。琵琶湖はそういう意味で、世界の入り口でもあります。もし鳥の世界を感じてみたい方は、日本野鳥の会滋賀の探鳥会に参加してみたり、湖北野鳥センターなどの自然観察施設にいってみるといいと思います。バードウォッチャーはみんないい人です。(笑)
Q:最後に若い世代へのメッセージをお願いします
ー自分の好きなことを、どんどんやってほしいと思います。
正しいと言われていること、褒められることを追いかけるのではなく、わくわくすること、心惹かれるものに色々挑戦してみてほしいです。
その経験がきっと、あなたの一生を支えたり、人にも琵琶湖にも役立つかけがえのない財産になるんじゃないかと思います。
取材の後、西の湖に燕のねぐら入りを見に行きました!
取材を終えて
今回の取材で、自分の手でつくるということが印象的で、周りを見渡すと食材や家などを含めて人がつくったものばかりだと気づきました。すべてを自分でというのは難しいですが、その中でも、どのように自分が物事や社会に関わっていけるのかを改めて考えるきっかけになりました。
取材のあとに連れて行っていただいたつばめのねぐら入りは、滋賀にずっと住んでいますが、初めて見ました。野鳥のお話であったように、この体験だけでも、生態系保全や環境保全について考えることができました。身近な自分の興味から、視野を広げて滋賀や世界の課題について考え、取り組んでいきたいと思いました。