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「体験展示」で直接学ぶ 湖北野鳥センター(マザーレイクニュース)

MLGs学生ライターの今井陽南太・音羽雄登(虎姫高等学校)です。今回は、野鳥観察や展示などを通した水鳥の保護や自然環境の啓発に取り組む「湖北野鳥センター/琵琶湖水鳥・湿地センター」の植田潤さんにお話を伺いました。(取材日:2021年8月13日)

野鳥観察用の望遠鏡が20台以上完備されている。解説員が常駐しており、質問もできる。取材日は曇り空だったが、数匹の野鳥が観察できた。

滋賀県長浜市にある「湖北野鳥センター」は、剥製や生物飼育などの展示の他に、野鳥観察という体験が行える自然史博物館だ。四季を通してさまざまな野鳥を観察することができ、今までに52科243種類が確認されたという。また、1993年に琵琶湖が「ラムサール条約」に登録されたことを受け、1997年に「琵琶湖水鳥・湿地センター」が併設された。

団体向けのプログラムでは、水田でエサを食べるコハクチョウの群れの観察や、琵琶湖の浅瀬に入りながらの自然観察など、直接体験できる学習が用意されている。展示を見るだけでなく、実際に見たり聞いたり感じたりすることで水鳥をはじめとした琵琶湖の自然環境を学ぶことができるのが大きな特徴だ。

古くから守られた湖北の自然

長浜市湖北町では、琵琶湖で漁業が始まったあたりの時代から既に、自然環境との共存が行われてきた。稲作が重要視され、全国各地で干拓などで農地を増やそうとしていた時代に、あえて遠浅の湖岸を埋め立てず、琵琶湖の財産の一つである魚や漁業を地域全体で守ってきたのだという。また、この地域は、天然記念物に指定されているオオヒシクイという鳥が飛来する琵琶湖で唯一の場所である。この鳥は漁師の冬の食料になるが、漁師はあえて獲り尽くさずにバランスを保っていた。

現在でもオオヒシクイが飛来することについて、植田さんは「長い時間の中で鳥たちはこの場所が安全だということが分かっている。物語を伝える言葉がないので、DNAに組み込まれているのか、何らかの手段で長く子孫に伝えられているのだろう」と話す。また「この辺りの漁師さんはものすごく先見の明があった。普通の感覚なら獲り尽くすし、様々な歴史の中で絶滅した生物がいる中、この地域の人々はバランスよく共存を行っていた」と、古くからこの地域で自然と共存してきたことが今も受け継がれているという。

センター前の湖岸にはそうして守られてきた「原風景」が広がっている。琵琶湖の中に木が植わった小島がある風景は今はこの地域でしか見られないのだそうだ。

琵琶湖に浮かぶ小島に木が植わっている「原風景」。野鳥だけでなく、魚類や貝類、水生植物などの水生生物も多い

ゴールを設定する難しさ

人間が手を加えて管理、運営をする山を環境的な言葉で「里山」という。昔は薪に使う小枝や落ち葉、食べられる木の実などを求めて人々が山の中に入って環境に手を加えていた。そして長年この生活が続いたので、この「人間が管理した環境」が環境的な自然とよばれるようになった。

琵琶湖にもこれに似た「里湖」という言葉がある。この言葉は、琵琶湖の周りに人が関わって成立している自然が多くあることを表している。そしてその例の一つがこの「原風景」である。

湖北で見られる生物の剥製展示。湖北の自然の豊かさを知ることができる

かつての人々は小島に生えている木を、薪や何かの材料にするために定期的に伐採していた。昔は木を切り倒すスピードが遅いので伐採直後の箇所やまだ伐採されていない箇所、ある程度時間がたった箇所などの差が生まれ、結果的にそれらの異なる環境が生態系を維持していた。小島では現在でも木が定期的に切り倒されており、直射日光が入ることで水生植物のヨシが生えている。しかし人々が木を切り倒すことがなくなったその他の湖岸にはヨシが生えていない、といった違いが見受けられる。

琵琶湖をめぐる自然環境は時代ごとの人々の動きによって大きく変わってくる。そのため、どの時代の琵琶湖を「生態系保全」のゴールに設定するかがポイントとなってくる。

今回取材に応じてくださった植田さん

保全について植田さんは「人がいなかった時代の琵琶湖をゴールに考えると、ヤモリやヨシなどの生物は良い影響を受けない。人間が自然を利用した時代の琵琶湖をゴールにすると、山に人が入らなくなったことで数を増やしたシカなどは減少すると思う。現状維持を考えたら外来種の影響で在来種が危ない。どこにゴールを定めても損をする生物と得をする生物が出てくるので、覚悟を持って誰かが決めて動くしかない」と話す。

MLGsのゴールでは、2番「豊かな魚介類を取り戻そう」や3番「多様な生き物を守ろう」など、琵琶湖の環境や生き物を守ることを目指す目標も設定されている。これからの琵琶湖の自然環境を考え、湖北野鳥センターで多様な生き物たちを観察し、琵琶湖の自然を体感してみてはいかがだろうか。

この記事は、「MLGs ライター講座」の受講生の皆様によって取材・執筆いただきました。

取材協力:湖北野鳥センター/琵琶湖水鳥・湿地センター(http://www.biwa.ne.jp/~nio/