こんにちは。 MLGs学生ライターの石田晴之(近畿大学)です。
3月14日にグランフロント大阪で行われた琵琶湖・淀川流域シンポジウム「水を意識しつながりを感じる~健全な水循環の継承に向けて~」が関西広域連合の主催で開催され、同時にオンラインでも配信されました。
関西広域連合では、「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに掲げる2025年大阪・関西万博の開催を踏まえ、昨年9月、「いのち育む“水”のつながりプロジェクト」を立ち上げ、流域における広域的な水源保全やプラスチックごみの発生抑制、清掃活動など、総合的な取組を実施されています。
開会挨拶~関西広域連合 広域連合長 三日月 大造
開会挨拶の中で三日月広域連合長は、関西万博のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」に触れ、「関西万博を機にいのち輝くために、命あるために「水」問題の重要性がますますクローズアップされるのではと思います」とお話されました。
関西万博の公式キャラクターミャクミャクと一緒に登場した三日月広域連合長は、ミャクミャクは湧水地で生まれ、青い部分は水で出来ていることも紹介しながら、「やっぱり水って大切ですよね」と会場の心を一つにしました。
開会挨拶の関西万博公式キャラクターミャクミャクと三日月広域連合長(写真:滋賀県提供)
特別講演 三遊亭 わん丈 氏 (江戸落語家)
続いてはなんと落語!シンポジウムで落語が聞けるとは思っていませんでした。
三遊亭わん丈さんは滋賀県初の江戸落語家で、海ごみなどを題材に落語を創作され、SDGsの活動にも取り組まれているそうです。滋賀県で育った幼少期の頃のお話なども交えながら、「拝啓 浦島太郎さん」~琵琶湖・淀川流域ver.~というタイトルで落語を披露されました。プラスチックごみを題材にした、子供向けに制作された創作落語だそうですが、非常にわかりやすく、笑いながらも自分の行動を振り返るような内容でした。
特別講演を行う江戸落語家、三遊亭わん丈さん(写真:滋賀県提供)
基調講演 「水循環の仕組みと気候変動等に伴う水不足リスク」田中 賢治 氏 (京都大学防災研究所 教授)
田中教授は水文循環(雨が降り、地面が潤う、木が吸い上げ、太陽が照らすことで蒸発する、そのような循環系のこと)や陸面過程(大気とのエネルギー収支を正確に算定することに重点を置いて水の流入と流出を計算するもの)モデルを研究されています。
印象的だったのが、将来の「もしも」のお話です。気候変動が起こっている将来、もしも今のダムの能力で、今と同じ水の量を使用し続けたら…琵琶湖の水位は簡単にマイナス90センチを超えてしまうそうです。もしも需要に応えるだけ、水を流し続けたら…マイナス3メートルとなり、色んな生物が死んでしまいます。
田中教授は「水の使い方を変えずに、人口が半減するならなんとかなる。でも、人口が半減しないとやっていけない淀川でいいですか?」と会場の参加者に問いかけました。
水の使い方を考えないといけないなと痛感した講演でした。
MLGs体操
休憩中には、伊藤みきさんからのビデオメッセージによるMLGsの紹介と、MLGs体操が上映されました。
パネルディスカッション「貴重な水を将来に引き継ぐために」
【話題提供1】 「淀川左岸地域を中心とした流域連携活動の取り組み」
摂南大学石田裕子教授より事例の紹介がありました。
淀川左岸流域の寝屋川流域は元々洪水の多い地域であり、コンクリート護岸で固めて、フェンスを高くするなど河川整備をして治水対策を行ってきました。すると綺麗にはなったが、住民は無関心になっていき、物理的な距離は近いが心の距離が離れ、遠い川となっていました。
市の名前にもなっている「寝屋川」をよくしたいという想いから、2001年から寝屋川再生ワークショップが行政、市民、大学の協働で行われました。ワークショップでの意見が取り入れられ、駅前のせせらぎ公園が2005年に完成し、石積み護岸になり、階段やウッドデッキを整備し、近づける川となりました。
行政・市民・大学との協働が上手く継続できている理由として、行政だけではできないきめ細やかな対応を、流域全体のことも理解する地元の団体が地元密着で取り組んでいること、また色んな主体者が「自分事」として「楽しんで」活動していること、また、大学などが科学的なモニタリング調査をして、結果を可視化していることなどが挙げられていました。
パネルディスカッション「貴重な水を将来に引き継ぐために」
【話題提供2】 「プラスチック汚染に立ち向かう~脱プラスチック、そしてサーキュラーエコノミーへ~」
続いて、同志社大学経済学部原田禎夫准教授からも事例発表がありました。
原田准教授の発表でまず始めに画面に映し出された緑色の破片の画像。
これは、海洋プラスチックごみの中でも非常に多い、人工芝の破片だそうです。
「ポイ捨てしていないから自分とは関係ないではない、知らず知らずのうちに流れてしまっているプラスチックごみが沢山ある」という衝撃的な発表から始まりました。
更に、「生態系への影響が懸念されるプラスチック汚染は人間も無関係ではなく、人間の血液などからもナノプラスチックが見つかっている、将来魚よりプラスチックごみの方が多くなる」と衝撃的な研究データの数々が報告されました。
また、先進国と比較した日本のプラスチックごみの意識の低さについての発表も印象的でした。日本でもレジ袋有料化がようやく取り入れられましたが、海外ではレジ袋「禁止」の国もあり、リサイクル率も先進国の34か国のうち下から4番目だそうです。「決して劣っているわけではないが、出遅れているのは事実」とおっしゃっていました。
【活動紹介】同志社大学、大阪商業大学の学生
環境問題に関するゼミやボランティアに参加する学生2名からも発表がありました。
「ごみ拾いを楽しいイベントとして取り組んでいる」といったお話や、「毎月同じ場所を清掃していて、せっかく綺麗にしても翌月また同じ量のごみが溜まっている」「ペットボトルごみは中に飲み物が残ったままのことがあり、匂いもすごく、正直嫌なこともあるが、終わると達成感」といった参加されているご本人ならではの発表がありました。
会場参加型ディスカッション
最後は琵琶湖・淀川流域対策に係る研究会座長多々納 裕一氏がモデレーターを務め、会場参加の方から、オンラインで質問を募集し、質問にパネリストが回答したり、意見を述べるディスカッションが行われました。
その中でも印象に残ったのは、「海ごみゼロに向けて一人一人は何をすべき?なぜ日本人は意識が低いのか?」という質問です。原田先生は「日本の皆さんが悪いではない、今の日本のシステムが個人のモラル、マナーに頼り過ぎているところがあり、やっていない人と比べての負担を感じてしまう仕組みに問題がある」「政治家の皆さんが、全員環境問題に詳しいかというとそうではない、一人一人が自分事として捉えて声を上げて訴えていかなければ」とおっしゃっていたのが印象的でした。
最後に再び三日月広域連合長が登壇され、「色んなことを知って、意識が変わり、行動が変わり、環境が変わる」、「自分でもやれることが何かあるのでは?」と参加者に問いかけてシンポジウムを締め括られました。
取材後記
本シンポジウムでは、大学の教授からの専門的なお話はもちろん、落語があったり、学生の発表があったりといろんな角度から水や川・琵琶湖・ごみ問題について考える機会となりました。ボランティアやワークショップなどに参加する大学生の話が沢山出て来て、専門的な知識がなくても、気軽に楽しんで参加しても、少しは役に立てるかもしれないと思えました。これを機に友達を誘って清掃のボランティアに参加してみようと思います。