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琵琶湖の深呼吸「全層循環」を学ぼう!

こんにちは。

MLGs WEB学生ライターの窪園真那(立命館大学)です。

今回は琵琶湖の深呼吸と言われる「全層循環」について、滋賀県琵琶湖環境部琵琶湖保全再生課の藤原 務さんにお話を伺いました。

全層循環について藤原さん(右)に丁寧に説明いただきました

琵琶湖の全層循環とは何か

琵琶湖北湖では、例年春から初冬にかけて表層の湖水が温められることで、表水層と深水層の間に水温が急激に変わる「水温躍層(すいおんやくそう)」が形成されます。水温躍層があると、上層と下層の水の対流がなくなるため、深水層では酸素が供給されずに酸素の消費が進んでいき、晩秋に底層の溶存酸素量*が最も低くなります。その後、冬季に表水層の水温が低下することや季節風の影響などで、表水層から深水層に向かって湖水の混合が進み、表水層から深水層まで水温と溶存酸素量が一定になります。

*溶存酸素量とは、水中に溶けている酸素量のこと。DO:Dissolved Oxygenとも略される。

この現象を「全層循環」と呼びます。

琵琶湖の全層循環のイメージ (県琵琶湖環境科学研究センター提供)

 

2年連続、全層循環確認されず

しかし、平成30年度は昭和54年度の調査以降初めて、調査水域の一部で全層循環が確認されませんでした。そして令和元年度も同じ水域で全層循環が確認されず、2年連続で全層循環が未確認となりました。

全層循環が深水層にまで達しない場合、春先以降、溶存酸素濃度が例年に比べて低い状態から低下が始まります。湖底に住む底生生物への影響、ひいては生態系への影響も懸念されています。また、溶存酸素濃度の低下の影響はそれだけにとどまりません。溶存酸素濃度が著しく低下することで湖底にある堆積物からマンガンやリン、砒素といった水質汚濁の原因となる物質が溶出されるようになります。

実際に2年間全層循環が確認されなかった影響で底生生物の減少や砒素、マンガンが検出されるといった事例が報告されています。

全層循環の調査とは

琵琶湖の全層循環の調査は、琵琶湖環境科学研究センターで実施しています。調査を行う場所は琵琶湖の中で最も深い、北湖今津沖の第一湖盆中央(水深約90m)及びその周囲です。数カ所の地点で調査を行い、溶存酸素濃度がどれほど回復しているかを確認して「全層循環が起こっているか」を調査するそうです。

また、琵琶湖の溶存酸素濃度の調査は、水産試験場でも実施しています。

「全層循環が未完了となったことがきっかけとなり、水産試験場でも底層溶存酸素濃度の調査を実施していることを知り、今では互いの研究機関で、調査結果を共有するなど、協力して琵琶湖の湖底の状況を把握している」と藤原さんは話します。

調査地点について (県琵琶湖環境科学研究センター提供)

 

今津沖中央における底層DO(溶存酸素濃度)の経月変動 (県琵琶湖環境科学研究センター提供)

 

「今津沖中央における底層DO(溶存酸素濃度)の経月変動」から各調査日ごとに底層DOにかなり変動があることがわかります。特に2年連続全層循環が確認されなかった令和元年度の青い折れ線を見ると、いくつかの特徴を読み解くことができます。

一つは前年の平成30年度の冬季に全層循環が確認されなかったことで、例年に比べて春季の底層DOが低い状態で始まっています。その影響で8月中旬には底生生物への影響が見られる2mg/Lの底層DOを下回っています(10.0mg/Lが 水に溶ける酸素飽和量)。

一方で、10月中旬に底層DOが急激に上昇し、回復しているのは台風の影響だそうです。滋賀県付近への台風の接近数も琵琶湖の全層循環に大きく関係しているということです。またこの年は全層循環が例年起こる冬季の底層DOの数値が大きく上下運動をしています。

これは酸素や水温が十分混合せず、均一になっていないことを示しています。そして春季に表水層が温められ水温躍層が形成されるまでに底層DOや水温が均一になった数値が得られなかったため、令和元年度は「全層循環が起こらなかった」という報道がなされました。

つまり、「全層循環が起こったか、否か」の判断は、春季に水温躍層が形成される前に底層DOや水温が均一になるか、ならないかで決定されるということです。

県琵琶湖環境科学研究センター提供

そのことは「第一湖盆の各地点における底層DOの鉛直分布図」からよくわかります。このグラフのA,C,D,L,Fは調査の各地点を示しており、2月6日と比べて2月13日の調査では水深の深いところで底層DOが概ね均一になったことを確認することができます。こうなることで全層循環が起こったと言えるのです。

調査に使用する水中ドローン (県琵琶湖環境科学研究センター提供)

 

これらの底層DOなどの調査は夏は2週間に一回程度、冬は生物の底生生物への影響が見られる目安である2mg/Lを下回る可能性が見られると、頻度を上げて毎週調査を行っているとのことです。

「特に冬場の琵琶湖上は非常に寒く、強風により波も高いため、調査を行うのも大変」と藤原さんは調査員の苦労を話されました。

またロボットを使用した湖底調査も行っています。水中ロボットのROVはハイビジョンカメラ・レーザースケーラーを搭載し、採泥装置を付加しているため、観察しながら採泥ができる仕組みです。ROVは底生生物などのモニタリングを行い、全層循環の生物面での影響調査を行なっています。

最後に

私の地元の鹿児島県にも九州最大の湖でカルデラ湖の「池田湖」があります。池田湖でも同じく全層循環が確認されているとお聞きしたため調べてみたところ、「2011年2月、池田湖において25年ぶりに全層循環が発生した」「2018年2月、6年ぶりに池田湖の全層循環が確認されたため」などといった文章が目立っていました。

しかし地元の私自身、このニュースについて何も知りませんでした。18年間鹿児島県に住んでいた私がこの存在を知らなかったのは、池田湖というものが私にとって生活の一部ではないからかもしれません。

それに対して「琵琶湖の深呼吸、全層循環」については多くの滋賀県民が注目し、報道はこの話題を大きく取り上げます。それだけ琵琶湖という存在が滋賀県民にとって大きく、生活の一部として大切にされていることを改めて感じました。藤原さんは、「やはり琵琶湖は漁業やレジャーなど人々の生活と密接な関係があると感じます。全層循環が起こるか、起こらないかは県民の大きな関心事にもなっている。」と琵琶湖の全層循環が滋賀の人々にとって重大ニュースであることを振り返りました。今後も琵琶湖の全層循環に注目していきたいです。

取材を担当した窪園(左)とわかりやすく説明してくださった 藤原さん(右)