こんにちは、くうのるくらすの創造舎&気候アクション滋賀ネットワークの南村多津恵です。
2月18日(土)、ワークショップ「MLGsたてもの探訪〜CO2ネットゼロ社会の住まいと暮らしを描く」を開催しました。(企画運営:NPO碧いびわ湖、くうのるくらすの創造舎)
昨年度のオンライン・トークサロン「住みたい、建てたい、これからの”住まい”って?」の続編に当たる今回は、語り合うだけでなく現場に出て二つの住まいを見学させていただきました。
新築の最新断熱住宅を訪問
午前中に訪れたのは、草津市内のTさん邸です。昨春に新築で売り出されたこの2階建てのお家に家族5人で入居されました。
ここは省エネ住宅で有名な松尾設計室の企画住宅です。環境配慮型の住まいづくりに取り組む栗東市の工務店ベストハウスネクスト(株)が建てた家です。
訪れた朝はどんより曇って2月らしい寒さでしたが、お家の中はほんわりと暖かく、ふんだんに使われている無垢の木と、光を取り入れる大きな掃き出し窓、開放感ある吹き抜けの構造にほっとしました。
壁には外気と遮断する80mmの断熱材が入っています。この家の断熱性能は、国の基準だと7段階ある断熱等級の6に相当するそうです。上から2番目の性能の高さですが、それでもヨーロッパでは最低ランクだとのこと(残念ながら日本の断熱基準は低いのです)。
空調は暖房用と冷房用にそれぞれ1台のルームエアコン(14畳用)があり、それが家全体を心地よく保っていました。
暖房用は床下に暖気を送り込み、基礎を温めています。リビングの何カ所かにあるスリットから温風が吹き出すようになっていて、その温もりが吹き抜けを伝い2階までも温めています。トイレもお風呂も玄関すら暖かいということに感動を覚えました。
2階の屋根裏は空調室になっており、夏場はそこにある冷房用のエアコンから換気扇で家中に冷気が送られる仕組みになっていました。
窓は、光は入れて外気温の影響を防ぐために南側はダブルガラス、北側はトリプルガラスでした。網戸は簡単に取り外せて、冬場には光を取り入れやすくなっています。夏場の熱を防ぎ冬場の日差しを最大限に取り込むため、ひさしの長さやベランダのサイズも工夫され尽くされていました。
屋根にはソーラーパネルがのっていますが、売電収入は10年間は設置事業者に入る「屋根貸し」の仕組みです。その後はTさんに権利が移管されます。
「自分はこの家のオーナーというよりはユーザーという感覚」と話すTさんは転勤族で、全国の賃貸住宅を転々とされてきました。最終落ち着く家を求める中でもっとも重視されたのは交通利便性だったそうです。大阪の職場へJR一本で通えるという条件で探し、たまたまめぐり会ったのがこの家だったとのこと。断熱性能の高さも決め手になったそうです。
ご家族みんなが居心地の良さに魅了されていて、お子さんたちは吹き抜けがあることが一番のお気に入りなのだとか。
光熱費は年間でならせば以前の住まいより安くなっているけれど、仮に高くなっていたとしてもこの家にはそれ以上の価値があるからかまわないとのこと。終の住処としてとても満足しているとおっしゃっていました。
「つくるを楽しむ」住まいへ
午後に訪問したのは野洲市内の農村部にあるMさん邸です。Mさんご夫妻とお子さんの3人に迎えていただきました。
こちらは1981年築の中古住宅を買って2014年に入居され、住まい手ご自身の手でリフォームをされたお家です。
Mさんは大工として20年のキャリアのある方。手に入れた古いお家を夫婦で協力してリフォームされました。
通していただいた広いリビングキッチンは壁と天井と床に断熱材が入っていて、石油ファンヒーター1台で全体がぽかぽか。
大きな掃き出し窓から眺める庭にはニワトリ小屋があり、自分たちで植えたというたくさんの種類の果樹が育っていました。ニワトリのこぼしたエサを目当てに野鳥が集まってくるし、季節ごとに様々な花が咲くそうで、見ていて飽きない庭でした。
寝室などの他の部屋も断熱材を入れているため暖房をつけるとすぐ暖かくなるそうですが、夜につけて朝になったら冷えているとのこと。
「この家であったかいのはこの部屋だけ、あとは地獄ですよ、あはははは!」とご家族みんなでけらけら笑っていらっしゃいました。
家に帰ってきたとき、誰でも座る位置はそれぞれ決まっている、だからそこが居心地よければよいのです、と。リビングにはお子さんの勉強机もあり、家族みんなが集う心地よい空間になっていました。
子どもが生まれてから賃貸を出て新しい住まいを探し、この家に住むことに決めたのは、大きなひさしに惹かれたからだそう。その下にデッキを自らつくり、梁からブランコを下げて、子どものお気に入りの場所になったとか。
完成された家でなくて、そんなふうに「自分たちで触れる家」がよかったのだそうです。お家の中を案内しながら、天井を塗ったときの色の失敗や、壁塗りの方針について夫婦で意見が割れたことなどを楽しげに話してくださいました。
ワークショップ 私が暮らしたい“住まい”とは?
一通り拝見したあとは、みんなで意見交換です。
T邸、M邸の気に入ったところ、好きなところを書き出してもらって話しました。
T邸
- 吹き抜けを利用した冷気と暖気の流れを利用する設計
- 1つのエアコンで家全体があたたまることに驚き
- 電力使用が抑えられる
- 冬でも寒くない風呂場がすばらしい
- ヒートショックが防げる
- 吹き抜けと明るい窓の開放感
- 家族の気配が感じられる
M邸
- 一部屋に家族みんなが集まっている
- 心地良い居場所に重点を置いた部分断熱
- ファンヒーターの温風を利用したこたつ
- ポイントをしぼってお手入れ
- 庭の果物、庭を楽しむ
- 竹の活用、自然素材に囲まれた安心感
- 楽しみながらつくる
- 行動力
- 頭の使い方
8歳のお嬢さんも参加して、この家の好きなところを教えてくれました。
- 庭にいろいろなお花や木があって楽しい!
- きせつによって、食べられるものもちがって楽しい!
- クルミの木で木のぼりができて楽しいです!
- クルミのはっぱがニワトリのひさしになっているので、すずしい空間がうみだされてる。
- ブランコがあることで、友だちとあそぶ時、より楽しいことができる。
私たちのために庭の花を摘んできて花瓶に生けてくれるなど、とても感性が豊かで、それを育んでいるのがこの住まいであることは間違いないと感じられました。
続いて、「自分はどんな住まいで暮らしてみたい?」、参加者の皆さんにこう尋ねてみると、こんな答えが返ってきました。
- 適度にあたたかく過ごしやすい
- 家族の居心地がいい
- 自分の感性に合う
- 居て安心できる
- 災害があっても安心
- 自分たちで触れる、自分の手でなんとかなる
- CO2ネットゼロ(気候変動の原因を作らない)
- 滋賀県産材を使っている
「実現するために必要なものは?」、との問いには
- 正しい情報や技術
- 手助けしてくれる人
- 時間の余裕
- お金の余裕
など。また、
- 自分で手入れすることが許されている環境
- 資金を生み出すためのお金の勉強
- 取組のハードルを下げるための制度が整えられていること
- 県産材のコストダウン
- 大工さんがしっかり勉強していくことが必要
などの意見もありました。
そして、私たちが実際に暮らしに取り入れるために、「どうやったら実現できるか」をより具体的に考えてみました。
相談相手をもつ
―住まいについてはたくさんの情報があって、何が正しいかがわかりにくい。信頼できる相談相手をもてば、見極めて判断できるようになる。
住まい手の経験や情報を蓄積して、作り手にも伝えていく
―住まい手も、つくり手も、すでに家をつくったり住んだりした人の経験や情報を共有したい。でも、自分で家を建て終えた人は、家について調べたり学んだりしなくなるので、経験や情報が蓄積されにくい。そこで、生協の組合員活動などで、住まいについての経験や情報を持ち寄ってみる。他の人の経験も聞けるし、まとめた声をつくり手に届けていくこともできる。
経験者がDIYの相談にのれるようにする
―リフォームは自分である程度はすることも可能だが、一人だとなかなか取り組みづらい。相談にのってくれる相手がいるか、手を貸してくれるプロがいるような環境があれば、自分できる人が増える。たとえば「うちの家こんなんですが、どうしたらいいですか」と動画投稿したら経験者が答えてくれるような仕組みなど。
想いを共にする人同士でつながっていくこと
―今回の参加者や住まい手は環境意識の高い人が多く、CO2排出の少ない断熱住宅を普及することが必要だよねという話で一致した。技術を持っている人も、これから自分の家で取り組むという人もいた。想いを共にする人同士でつながりあっていくことで、思っていることを実現していける。
こうした取り組みを進めていくことで、MLGs7「びわ湖のためにも温室効果ガスの排出を減らそう」、MLGs8「気候変動や自然災害に強い暮らしに」につながる新しい時代の住まいづくりが進みやすくなる、と思えました。
おわりに
今回の参加者は午前が5人、午後が8人とこぢんまりした会でしたが、そのぶん濃密な話ができました。
最後に皆さんから感想をお聞きしました。
- 拝見したお家の魅力に圧倒された
- 初めて学ぶことがたくさんあった
- すてきな人たちに知り合えてよかった
- 自分のこれからの住まいへのイメージがわいた
- 次にするべきことが見えてきた
などなど、いい反応が聞けました。
お家を見せてくださったTさん、Mさんも、最初は企画への協力を依頼されてびっくりされたそうですが、ご自身の住まいの魅力を皆さんに感じてもらえてよかったと思ってくださったようです。
今回のワークショップをきっかけに新しい動きやネットワークが生まれ、びわ湖に負荷をかけず人間らしく暮らせる住まいが広がっていくことを期待したいと思います。